論文抄読会

第11回消化器外科論文抄読会を開催(2025年2月15日)いたしました。

2025年2月19日

開催日:2025年2月15日
司 会:進士誠一先生
指導医:向後英樹先生
発表者:吉森大悟先生
論文名:The retrocolic fascial system revisited for right hemicolectomy with complete mesocolic excision based on anatomical terminology: do we need the eponyms Toldt, Gerota, Fredet and Treitz?
掲載雑誌:Colorectal Disease. 2023;25:764–774.

今回の発表は大学院3年生の吉森先生にやって頂きました!
吉森先生は医師11年目で現在は大学院に進学し、膵臓の微小環境、特にエクソソームという難しい研究テーマに挑んでいます! 吉森先生はアイスホッケー部の主将を勤めた、学年を代表する豪傑でありながら、手術に飽くなき探究心を備え持つ外科医です。その反面非常に子煩悩で優しい一面を持ち、上からも下からも慕われる、時期ヘルニア隊長です!
そんな吉森先生は外科医なら誰しもが壁にぶち当たる、後腹膜の解剖に関する最新の知見を紹介してくれました。

論文内容:
JSES2024のAOB( Anatomy of the Border )コンセンサス会議にて膵周囲や結腸間膜背側の剥離面に対する外科解剖学的呼称を統一するためのワーキンググループの知見が報告された。Fusion fascia, Proper visceral fascia, Renal fasciaを用いれば、おおよその剥離面を説明できるといった報告です。

方法概要:
キール大学解剖学研究所の献体プログラムから得た8人の献体を、外科医が段階的な筋膜分離、解剖を行った。それぞれのステップでの解剖学的解析、また結腸から背側の組織を1断面として単一組織ブロックを採取し組織学的評価を行った。

結果概要:
結腸間膜、壁側腹膜筋膜、腎前筋膜をマクロ、ミクロ共に同定できた。
1. 結腸間膜の背側(Mesocolic fascia)と壁側腹膜筋膜(parietal peritoneal fascia)の間の剥離可能層があり、parieto-mesocolic interfaceとした。
2. 壁側腹膜筋膜(parietal peritoneal fascia)と腎前筋膜(anterior renal fascia) の間の剥離可能層があり、parieto-renal interfaceとした。

コメント:
解剖や組織像と同様の構造が必ずしも術中に得られるわけではありません。しかし、AOBコンセンサス会議のように、術中見られる構造物に明解な呼称をつけるのは、手術を進めるにあたって有用です。 例えば、経験的に結腸右半分切除の際、外側アプローチで授動すると十二指腸の背側に達することが多いと思います。鏡視下手術でも後腹膜アプローチで授動し最後に結腸背外側の剥離をすると1層切らないといけないことを経験します。結腸(間膜)と腎筋膜の間に1膜あるというのは実臨床からも整合性があり、それを整理できました。近年、ロボットや鏡視下手術の拡大視効果により、膜の構造や癒合筋膜がよく認識できるようになり、外科的膜解剖の認識も再検討がなされています。最近では、イラストレイテッドの著者である篠原先生も、著書の中での癒合筋膜の記載についてシェーマの見直しを行い、筋膜という呼称についても再検討をしているようです。外科解剖という昔ながらのテーマも時代と共に変化があり興味深い発表でした。
我々消化器外科は膜構造の認識を正確に行うことが非常に重要です。これだけ医学が進歩しても、解剖に関してはまだ全会一致のコンセンサスが得られていない、非常に奥が深い分野と再認識しました。消化器外科は全身を診る能力だけでなく、職人的な側面も併せ持つ非常に面白い分野です。何が良い手術か、皆で議論することは非常に楽しいですね。興味がある方は是非、共に手術について語り合いにきてくださいね!!とても良いテーマを発表していただき、議論も盛り上がりました!次回もよろしくお願いします!

日本医科大学付属病院消化器外科論文抄読会
日本医科大学付属病院消化器外科論文抄読会