下部消化管グループ

治療実績

閉塞性大腸がんに対するステント留置後手術

私たちは、よりよい大腸癌治療を目指して以下の取り組みを行っています。

  • 直腸がん 難しい直腸がん手術をやさしく、短時間で
  • 閉塞性大腸がん 大腸ステント—人工肛門が要らない治療
  • すでに転移が見つかっている大腸がん 遺伝子検査による分子標的薬を用いた癌治療
  • リキッドバイオプシー生検が要らない新たながん診断

難しい直腸がん手術をやさしく、短時間で

大腸がんに対する腹腔鏡手術は、その低侵襲性(身体的負担の少なさ)から日本でも急速に広まり、今では約70%の症例が腹腔鏡手術で行われるようになりました(日本内視鏡外科学会第14回アンケート調査より)。
しかし,大腸がんの中でも、肛門に近い下部直腸がんに対する手術は、腹腔側(お腹側)から遠い骨盤の奥での繊細な手術操作を必要とするため、特に、男性、骨盤が狭い方、肥満の方、腫瘍が大きい方の場合、根治性を担保しながら低侵襲な手術を行うことは例えロボット支援を用いた手術でも非常に難しく高度な専門性が必要となります。
近年、内視鏡下手術の技術・器具の進歩はめざましく、下部直腸がん手術において、肛門に専用の器具を挿入し,腹腔鏡下手術の器具を用いて,肛門から腹腔側に向かって手術を行う経肛門的腹腔鏡下手術(Trananal total mesorectal excision: taTME)という術式が開発されました。この術式は,腹腔側からだけによる手術の困難性を克服し、腹腔側から最も遠い肛門に近い腫瘍の部分を良好な視野で繊細に行うことができる術式で、欧米から良好な成績が報告されています。また、この手術は,腹腔側からの操作と肛門側からの操作を同時進行(2チーム手術)で行えるため手術時間の短縮や身体的負担の軽減が期待できます。
この手術は高度な技術を有した医師が複数人必要ですが、当科は日本内視鏡外科学会の認定する技術認定医(大腸)が7名在籍しており、常時taTMEを行う体制にあります。
人工肛門をつけなければならない、開腹手術でなければ手術できないと言われて不安になっている患者さんは是非一度ご相談ください。

直腸手術における新しいアプローチ(taTME)。taTMEにおけるチーム同時手術

大腸ステント — 人工肛門が要らない治療

大腸ステントとは?

大腸がん患者さんの約10%は,がんによる閉塞症状(腹痛,腹部膨満,嘔気など)(この状態を閉塞性大腸がんと呼びます)を伴って受診されます。従来,この閉塞性大腸がんに対しては緊急手術を行い,高い確率で人工肛門を造設するのが標準治療とされてきました。緊急手術は術後合併症の危険性が高く,人工肛門造設後の患者さんは,生活の質(Quality of life: QOL)が落ちてしまうとともに,その管理に特殊なケアを必要とします。一時的に造設された人工肛門は通常,状態が改善した後に手術にて人工肛門閉鎖が行われますが,何らかの理由により60%の患者さんしか人工肛門閉鎖術が施行されなかったいう報告もあります。最近,人工肛門造設の回避目的に用いられる大腸ステント治療が注目されています。筒状の金属製大腸ステントは,内視鏡を用いてがん部に留置し,自己拡張力により閉塞部を広げることで腸管の閉塞を解除させます。大腸ステントの留置を行った患者さんは通常,その直後より症状が改善し,食事摂取ができるようになり,その後,十分な精密検査や準備を行った後に根治手術を行います(図)。この大腸ステントを用いた閉塞性大腸がん治療は,従来の緊急手術に比べて人工肛門造設率が低い,術後合併症が少ない,術後の入院期間が短い,腹腔鏡手術などの低侵襲(身体的負担が少ない)手術を行いやすいといった多くの利点を有しています。2012年に日本でも大腸ステントが保険適応となり,急速にその使用が増えています。

閉塞性大腸がんに対するステント留置後手術

・大腸ステントの安全性は?

大腸ステント留置に伴う合併症として,出血,穿孔,逸脱,再閉塞等あります。中でも穿孔(腸管に穴が開くこと)はもっとも重篤化する可能性がある合併症です。しかし,海外に比べ日本の内視鏡手技技術は高く,穿孔率は1~4%程度とされており,当科における穿孔率も1.4%(2例/145例)です。

・当科における大腸ステント留置手術に対する取り組み

閉塞性大腸がんに対する大腸ステント治療は,上に述べたように数多くの利点を有する治療法ですが,比較的新しい治療法であるため,1) がんを機械的に広げるためがんの伸展を促さないのか?,2) 大腸ステント留置から手術までどのくらいの期間を開けるべきなのか?,3) 最適な大腸ステントの大きさ(径)は何mmなのか?,4) 他の腸管減圧器具(経肛門的イレウス管)と比べて有用なのか?等,解決していない臨床的疑問が数多くあります。当科では,これらに対して基礎的,臨床的アプローチから多くの研究を行っています。

遺伝子検査による分子標的薬を用いたがん治療

化学物質や活性酸素、放射線やタバコなど、様々な原因により遺伝子に傷がつく(遺伝子変異と言います)ことで、“がん”が発生します。すべての遺伝子の変異ががんの原因となるわけではなく、がんの発生に深く関わるのは、特に、細胞の分裂と増殖に関わる遺伝子です。現在、がんを引き起こす原因となる『がん関連遺伝子』は数100個見つかっています。
がんに対する薬物治療には、抗がん剤、ホルモン剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤、などさまざまな種類があります。分子標的薬は、がん細胞で変異が起こった遺伝子の情報をもとにして作られた、異常な働きをするタンパク質(分子)を標的として働きを妨げ、がん細胞に選択的に作用します。どの分子標的薬が有効であるかは、患者さんによって異なるため、使用する薬剤を決めるために、がん関連遺伝子の検査が必要になります。分子標的薬にも副作用はありますが、抗がん剤よりも副作用が少ないと考えられています。
がん遺伝子パネル検査は、がんの発生に関わる複数のがん関連遺伝子の変異を一度に調べる検査です。次世代シークエンサーとよばれる機械を使った新技術を使い、300以上の遺伝子を一度に調べます。がん遺伝子パネル検査は、全国の「がんゲノム医療中核拠点病院」「がんゲノム医療拠点病院」「がんゲノム医療連携病院」で受けることができます。当院はがんゲノム医療連携病院です。

Liquid biopsy(リキッドバイオプシー)について

がん遺伝子パネル検査を行うにはがん細胞を必要とします。通常は手術または内視鏡で組織を採取します。近年、微量のがん細胞(循環腫瘍細胞)とがん関連遺伝子が血液などの体液から採取できるようになり、この技術をリキッドバイオプシーと呼びます。リキッドバイオプシーはRAS遺伝子のコンパニオン診断で2020年に、がん遺伝子パネル検査で2021年に保険承認されましたが、私たちは2012年から先んじてリキッドバイオプシーの研究に取り組んでおり、その研究成果を発表してきました。また、私たちは尿を用いてリキッドバイオプシーが行えることも明らかにしております。がん関連遺伝子の検査は小さな負担で行えるように、発展しており、より低侵襲な治療が行えることが期待されています。
リキッドバイオプシーはがんの早期発見や再発の早期発見への応用も期待されています。CTなどの画像診断では発見できないがんをリキッドバイオプシーで発見できる可能性があることがわかってきました。また、手術後に再発するリスクが高いかどうかをリキッドバイオプシーで予測できる可能性もあります。
循環腫瘍細胞は血液中を循環している生きた癌細胞です。今後は循環腫瘍細胞を用いた新薬の開発が行われるようになる可能性があります。リキッドバイオプシーは癌以外の良性疾患にも応用が可能で今後さらに医学の分野での応用が期待されています。  

論文発表

私たちは、医療の安全性向上、治療成績の改善のために論文発表を行うことはとても重要と考えています。

論文リスト

日本医科大学付属病院

山田岳史 病院教授
上原 圭 講師
進士誠一 准教授(医局長)
松田明久 准教授(副医局長)
横山康行 病院講師
高橋吾郎 病院講師
岩井拓磨 病院講師
宮坂俊光 助教医員・大学院
香中伸太郎 助教医員・大学院
松井 隆典 助教医員・大学院
林 光希 大学院
小泉岐博 非常勤講師
寺田俊明 非常勤講師

日本医科大学多摩永山病院

丸山 弘 准教授
堀田正啓 病院講師(医局長)

日本医科大学千葉北総病院

松本智司 講師(教育担当)
南村圭亮 病院講師
山岸杏彌 病院講師

日本医科大学武蔵小杉病院

太田 竜 講師(教育担当)
武田幸樹 助教医員
関口久美子 助教医員
清水貴夫 助教医員