食道グループ
当科における食道疾患治療
食道癌
食道癌に対する腹臥位胸腔鏡下手術を開始して10年を越え、胸腔鏡手術の長所も注意点も明らかとなってきました。再建臓器である胃管作成においても腹腔鏡手術で行い、身体の負担を減らす工夫をしてきました。本手術が従来から行ってきた開胸開腹術と同等の根治性を備えていることの検証を行い、さらに、縫合不全や反回神経麻痺などの術後合併症の軽減に努めてきました。また、2018年度から当院でも本格的に3Dハイビジョンシステムが導入され、この点でもさらに胸腔鏡手術の精緻化が進められると期待しています。さらなる侵襲の低減のために開胸しない縦隔鏡下手術も導入しております。
食道癌に対する治療は、低侵襲と機能温存が大きなテーマですので、早期表在癌に対しては内視鏡下粘膜下層切開剥離術を、高度進行癌では根治的化学放射線治療を消化器内科、放射線治療科と連携しながら行っております。また、新しい食道癌治療の一つとして光線力学療法を当科では2016年から導入しております。一方で、下咽頭癌・喉頭癌・胃癌などと重複する食道癌に対しては、安全性と根治性そして機能温存から頭頸部外科、形成外科と合同で手術治療を行っています。
食道良性疾患
食道裂孔ヘルニア・逆流性食道炎に対して以前では、プロトンポンプ阻害剤の内服治療が中心でしたが、NARD(非びらん性胃食道逆流症)といった複雑な病態や誤嚥性肺炎を繰り返すGERD(胃食道逆流症)、巨大食道裂孔ヘルニアなど手術治療が必要な患者さんが増えてきました。このような病態に対して、当科では腹腔鏡下食道裂孔ヘルニア修復(2012年〜2021年:43件)、逆流防止手術を行っています。
比較的若年者で、嚥下困難や嘔吐などを訴える疾患は、食道アカラシア、びまん性食道痙攣など食道運動機能異常症が考えられます。まず消化器内科での正確な診断が重要です。当院の消化器内科(岩切教授)と連携して術前にハイリソリューションマノメトリー(HRM)という最新型の機器で、食道運動機能検査(食道内圧検査)を行っており、より詳細な治療法の検討が可能となりました。
最近では、アカラシアなど食道運動機能障害疾患に対して内科的治療にて可能な場合は内視鏡的治療(内視鏡的拡張術、内視鏡下筋層切開術:POEMなど)を行い、内科的治療が困難な場合には外科治療の対象となりますが、その場合でも侵襲の少ない腹腔鏡下にて手術を行います。
食道疾患に対する外科治療においては、今後も高い水準をめざし、徹底した情報の提供と合意による、患者さんが納得の出来る医療を提供していきたいと考えています。