論文抄読会
第4回消化器外科論文抄読会を開催(2025年7月19日)いたしました。
2025年7月23日
開催日:2025年7月19日
司 会:川野陽一先生
指導医:向後英樹先生
発表者:林光希先生
論文名:Real-world data of anamorelin in advanced gastrointestinal cancer patients with cancer cachexia
掲載雑誌:BMC Palliative Care (2024) 23:214
今回は、大腸外科の大学院生の林光希先生より、悪液質に対する薬Anamorelinに関しての論文紹介をしていただきました。
林先生は研究熱心な大学院生で、さまざまな事務局業務の補助や実験をこなす一方、後輩の病棟業務のアドバイスや外来の代診、ヘルニア診療など多岐にわたってこなされるスペシャリストです。
先日参加された学会でもAnamorelinに関する演題が多くを占めていたことから、本薬剤の有用性への関心が高まって今回の発表の題材に選ばれたようです。
論文の概要
本研究は静岡がんセンターにおける単施設後ろ向き観察研究であり、2017年4月~2022年8月にAnamorelinを投与された74名の消化器がん(大腸・胃・膵)患者を対象としています。Cachexiaの定義を満たした症例から、3週間以上Anamorelinを継続投与できた44名を有効性解析対象とし、体重維持または増加と食欲改善をもって「反応あり」と判定しました。
全体の63.6%がAnamorelinに反応を示し、反応群では有意に病勢コントロール率が高い(75.0% vs 37.5%、p=0.0238)ことが示されました。75歳以上では反応性が低い傾向があり、また副作用として高血糖が最多(13.5%)でしたが、ほとんどがGrade 1〜2であり管理可能とされました。
胃・膵癌患者ではcachexiaの進行が早く、6週以内に最大体重増加が見られた一方、大腸癌では9週以降にピークを迎える傾向が報告されました。
ディスカッションの要点
- Cachexia治療において体重増加よりも体重減少の抑制という観点が重要か。
- 「体重」の評価は除脂肪体重や筋量など具体的な指標に分解する必要性がある。
- Ghrelinの定量評価により適応患者の選定や投与タイミングが見える可能性があるが、臨床応用には技術的・物流的制約もある。
- 保険制度上、12週以上の投与は原則制限されているが、絶対禁止ではなく、必要に応じて継続可能か。
- 悪液質の早期介入が強調され、「手遅れの状態」という認識の転換が必要か。
まとめ
Anamorelinは当初別目的で開発された薬剤でありながら、悪液質に対する有効性が見出され、臨床応用が広がっています。今回の報告は、胃切除後など食欲不振を呈する患者への治療戦略のヒントを含んでおり、研究テーマとしても発展性がある内容でした。多様な臓器を専門とする医師間で悪液質への理解を深められた点が非常に有意義でした。
本抄読会では、悪液質という多因子疾患に対する治療介入の実際を、臨床現場の視点から深く掘り下げることができました。Anamorelinをはじめとする薬物療法に加え、栄養・リハビリなど多角的なアプローチが必要であることが再認識されました。
研究テーマは身近なところに存在します。深掘りすることで、理解を深め、患者さんにより良い医療が提供できるようにしていきたいと考えています。
次回予告
8月16日に開催予定です。
司会は上原圭先生、指導医は高橋吾郎先生、発表者は濱口暁先生です。
次回もぜひご期待ください。