論文抄読会
第5回消化器外科論文抄読会を開催(2025年8月16日)いたしました。
2025年8月18日
開催日:2025年8月16日(土)
司 会:上原圭先生
指導医:高橋吾郎先生
発表者:濱口暁先生
論文名:Describing How a Medical Career Impacts Physicians’ Couple Relationships: A Qualitative Content Analysis Exploring the Experiences of U.S. Physicians, Physicians‑in‑Training, and Their Partners(和訳:医学的キャリアが医師カップルの関係性に与える影響についての質的研究)
掲載雑誌:Contemporary Family Therapy, 2025年
発表者の紹介と論文の選定理由
今回は、肝胆膵グループの大学院生の濱口暁先生より、医師とそのパートナーの関係性に焦点を当てた論文の発表をいただきました。濱口先生は手術に、病棟管理に、研究と、肝胆膵グループの要として忙しく働かれている先生です。その合間をぬって子育てにも奮闘されておられ、大学病院勤務の外科医として理想的なワークライフバランスを体現されております。そんな濱口先生から今回ご紹介いただいた論文は、医療従事者の「生活の質」に深く関係する内容でした。特に若手医師にとって、医師としてのキャリアと私生活の両立は将来を考える上で極めて現実的な課題であるにもかかわらず、その部分に焦点をあてた論文は少ないのが現状です。本研究の視点は臨床のみならず自己理解の一助としても有用であると考え、本論文を選定されたとのことでした。
論文の概要
研究は、オンライン広告によってリクルートされた35名(平均年齢35.9歳)の参加者を対象としたもので、参加条件は18歳以上であること、少なくとも一方が医療職(医学生、研修医、勤務医など)であり、6か月以上継続したパートナー関係にあることとなっています。参加者の大半は白人(80%)かつパートナーが異性(88.6%)で構成されていました。
研究では、医師キャリアが個人の健康や人間関係に与える影響の実態を明らかにしており、特に以下の3つの観点が重要と強調されています。(他にも多数のポイントを列挙あり)
- 過重労働・精神的負担がパートナー関係に与える負の影響
- パートナー視点からみた医師のメンタルヘルスとその周囲のサポート体制の不全
- 心理療法や家族療法における支援対象としての「医師カップル」の認識の必要性
また、Work-to-family conflict(WFC)という概念を通して、医療職の勤務体系が家庭生活に及ぼす影響を定量的・定性的に可視化する試みもなされています。
ディスカッションの要点
- 家庭内では「専門的すぎる会話は避けるべき」といった日常的な関係性維持のコツに関するコメント
- パートナーが医師か否かで大きく異なる関係性の力学について議論
- WFCの数値の解釈や評価方法が不透明である点についての疑問
参加者からは臨床と私生活の両立に関する実感のこもった意見が多く寄せられました。
まとめ
外科学会でも言及されるように、外科医の減少とその背景には私生活との両立困難が大きな要因として存在しています。特に女性外科医の活躍と出産・育児との両立は重要な社会的課題でもあります。外部支援の活用(ベビーシッター、家事代行など)を利用するなど、職場内でも個々の選択を尊重しつつ、現実的な支援制度を使うなど周囲の理解を得ることが重要です。医師という専門職がもたらすキャリア上の充実と、個人の生活・関係性とのバランスは、すべての医療従事者にとって避けられないテーマです。今回の抄読会では、医療現場の外側にある「個人としての生活」を深く掘り下げた内容により、多くの参加者が自身の働き方を見つめ直す機会となりました。
消化器外科医は特に仕事と家庭の両立が困難とされる診療科の一つです。当科では、ライフワークバランスを重視する若手への上級医の理解があり、性別に関わらず、家庭と仕事の両立を目指す外科医を応援する体制がございます。個々人の事情を考慮した働き方で、患者さんにより良い医療が提供できるように、バランスの良い外科医ライフを目指していきます。
次回予告
9月13日に開催予定です。
司 会:松下晃先生
指導医:岩井拓磨先生
発表者:遠藤憲彦先生
次回もぜひご期待ください。