論文抄読会
第6回消化器外科論文抄読会を開催(2025年9月13日)いたしました。
2025年9月17日
開催日:2025年9月13日(土)
司 会:松下晃先生
指導医:岩井拓磨先生
発表者:遠藤憲彦先生
論文名:Impact of phase angle on postoperative prognosis in patients with gastrointestinal and hepatobiliary-pancreatic cancer
掲載雑誌:Nutrition, Volumes 79–80, November–December 2020
発表者の紹介と論文の選定理由
今回の発表は、2025年度より病理学教室の大学院に進学された肝胆膵グループ所属の若手医師、遠藤憲彦先生にご担当いただきました。臨床業務からは一時的に離れられているものの、過去の病棟管理経験を通して関心を持たれた話題について、鋭い視点で深掘りしていただきました。論文選定の背景には、これまでの抄読会で取り上げられてきたサルコペニアや悪液質(カヘキシア)といった概念がありました。特に以前活用されていたInBodyという体組成計測機器において、何を評価していたのか改めて疑問を抱かれたことがきっかけであり、生体電気インピーダンス法(BIA)と位相角(Phase Angle, PhA)の臨床的意義を中心とした論文を選定されました。
論文の概要
方法
対 象:消化器・肝胆膵癌の初回根治切除患者
測定法:術前にBIAにて位相角(PhA)を測定
分 類:PhAを四分位で分類し、低PhA群(P25未満)と高PhA群(P75超)などで比較
評価項目:
短期予後:Clavien-Dindo Grade≧3の術後合併症、ICU滞在日数
長期予後:全生存率(OS)、5年生存率
主な結果
PhAは骨格筋量、握力、栄養指標と正の相関を示し、年齢やCRPとは負の相関を示した。
低PhA群ではサルコペニア・低栄養・悪液質の頻度が高く、術後ICU滞在延長リスクが上昇した。
術後合併症は有意差なかったが、長期生存率は有意に低下(PhAは独立した予後因子)した。
ディスカッションの要点
PhAの臨床的意味や日内変動の有無に関する疑問が挙がり、「位相角とは何か?」という根本的な議論に発展した。
有意差のない短期アウトカムに関して、ROC解析等の補完的検証が必要との意見もあった。
BIAは非侵襲的で簡便な評価法でありながら、術前予後予測ツールとしての可能性が示唆された。
指導医コメント
指導医の先生からは、単に論文を紹介するだけでなく、PICOの視点で臨床疑問を明確化し、統計的解釈から実臨床への応用可能性まで踏み込んだ点を評価するコメントがありました。
まとめ
術前の簡易的な身体評価ツールであるBIA測定、特に位相角(PhA)の活用は、短期・長期の術後予後を予測する上で有用である可能性が示されました。
本研究は、臨床現場での導入障壁が低く、再現性の高い手法として、周術期管理やリスク層別化への応用が期待されます。今回の抄読会を通じて、身体構成や栄養状態の可視化がもたらす意義を改めて確認する機会となりました。
消化器外科医として日々の診療に従事する中で、臨床に直結するスキルや知識の習得はもちろん重要ですが、それに加えて「なぜこの現象が起きるのか」「この評価項目にどういう意義があるのか」といった一歩深い問いを立てる姿勢が、将来的な診療の質を高める原動力になります。当科では、大学院などで研究に取り組む若手医師の活躍もみられ、臨床と学術の両面から成長できる環境がございます。
次回予告
2025年10月11日(土)に開催予定です。
司 会:櫻澤信行先生
指導医:鈴木幹人先生
発表者:木村光利先生
次回から半年間は外科専攻医の若手医師の発表となります。ぜひご期待ください。