論文抄読会

第7回消化器外科論文抄読会を開催しました。

2025年10月31日

開催日:2025年10月11日(土)
司 会:櫻澤信行先生
指導医:鈴木幹人先生
発表者:木村光利先生
論文名:Video‐based training of situation awareness enhances minimally invasive surgical performance: a randomized controlled trial
掲載雑誌:Surgical Endoscopy (2023) 37:4962–4973

発表者の紹介と論文の選定理由

今回の発表からは、外科専攻医2年目の若手外科医の先生方にご担当いただきます。木村先生は当科の外科専攻医2年目の若手医師で、非常に優秀で、日々の診療や手術の中を精力的に見学し、いろいろなことを学び吸収されています。手技の上達も目覚ましい先生です。今回の抄読会では、技術だけでは測れない“手術中の認知的スキル”situation awarenessに焦点を当てたトピックをご紹介頂きました。若手医師がこのような視点に注目するのは非常にユニークで、教育的観点からも価値の高い内容であり、木村先生の探究心の高さが表れた素晴らしい発表となりました。

論文の概要

背景と目的
近年、腹腔鏡手術のスキル習得において、技術面だけでなく“状況認識”の重要性が強調されている。従来のトレーニングでは技術面(縫合や運針等)に偏る傾向があったが、本研究では、映像に割り込み式の質問を加えたアクティブな学習法(situation awareness training; SAトレーニング)により、初心者の認知的スキル向上を目指した。

研究デザイン

  • 対象者:腹腔鏡未経験の医学生72名(最終解析は61名)
  • 介入群(SAトレーニング):動画視聴中に割り込み質問を提示し、能動的思考を促す
  • 対照群(受動視聴):同一動画を質問なしで視聴

評価項目

  • 主要評価項目:OSATS(客観的構造化手技評価スコア)
  • 副次評価項目:GOALSスコア、エラースコア、手術時間

主な結果

  • OSATSスコア:SA群の方が有意に高得点(p<0.001)
  • GOALS・エラースコア:SA群が有意に優れていた(特に「動脈損傷」「クリップ誤装着」など)
  • 手術時間:両群間で有意差なし

なお、動画に含まれていなかった操作(肝床剥離、肝損傷など)については、両群に差は認められなかった。

ディスカッションの要点

  • 評価者バイアスの懸念とその対処:本研究では、2名の評価者が事前研修を受け、評価基準の統一を図った点が評価された。
  • 日常の手術教育への応用可能性:現在、当院でもスライド提示や動画視聴を活用した術前学習を実施しているが、そこに「質問を挟む」ことで能動的学習につながるのではないかとの意見が出された。
  • SAの定義とその評価の難しさ:SAは可視化が難しい概念であり、今後さらに明確な指標や評価法の確立が求められるとされた。

指導医コメント

「術前カンファレンス等でも動画やスライドを使っているが、能動的な問いかけが加わるだけで、学習効果が大きく変わる可能性を感じました。教育手法として、今後さらに応用可能性がある内容でした」との講評をいただきました。

まとめ

本研究は、技術に加えて認知的側面(状況認識)を鍛えることで、初心者の手術パフォーマンスが向上するという重要な示唆を与えてくれました。腹腔鏡手術においては、術野の情報処理やリスク予測など、認知的スキルの比重が高く、若手育成の中でも特に注力すべきポイントであることが再認識されました。

消化器外科医の育成においては、実際の手技だけでなく、判断力や予測力といった「見えない力」の育成が不可欠です。当科では、若手医師が主体的に学び、先輩医師からのフィードバックを通して多面的に成長できるよう、教育的環境の整備を進めています。今後もこうした認知トレーニングを含めた多角的な教育の充実を図ってまいります。

次回予告

2025年11月15日(土)に開催予定です。

司 会:萩原信敏先生
指導医:上田純志先生
発表者:志鎌峻先生

次回も外科専攻医の発表となります。ぜひご期待ください。

日本医科大学付属病院消化器外科論文抄読会
日本医科大学付属病院消化器外科論文抄読会


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