論文抄読会
第8回消化器外科論文抄読会を開催しました。
2025年12月17日
開催日:2025年11月15日(土)
司 会:萩原信敏先生
指導医:上田純志先生
発表者:志鎌峻先生
論文名:Association between skin suture devices and incidence of incisional surgical site
infection after gastrointestinal surgery: systematic review and network meta-analysis
掲載雑誌:Journal of Hospital Infection, 2024; 150: 134–144
発表者の紹介と論文の選定理由
今回の発表も引き続き専攻医の先生が行いました。志鎌峻先生は、日頃から手術に強い関心があり、手術室ではさまざまな役割を精力的に担っている若手医師です。常に学ぶ姿勢を忘れず、確実に力を蓄えている様子が日常診療からも伝わってきます。本会では、消化器外科手術における閉創手技とSSI(手術部位感染)予防に関する最新の知見を取り上げた論文が選定されました。今年実施された形成外科との合同ハンズオンで得た学びを踏まえ、「閉創」に対する姿勢が変わるほどの衝撃を受けた経験を発表に活かされており、臨床と結びついたテーマ設定が印象的でした。
論文の概要
本研究は、消化器外科手術における皮膚縫合デバイスと表層SSI発生率の関連について、系統的レビューとネットワークメタ解析を用いて検討したものです。
対象研究:2000〜2022年に発表された18件のRCT(総患者数5496名)
アウトカム:術後30日以内の表層SSIの発生
使用デバイスの分類:吸収糸=真皮埋没縫合、非吸収糸=経皮縫合
統計手法:オッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)、P-score(順位付け指標)
バイアス評価:Cochrane Risk of Bias 2、Egger検定(出版バイアスなし)
結果として
最も表層SSIが少なかったのは吸収性真皮縫合(P=0.82)であり、絹糸による経皮縫合(P=0.12)は最も感染率が高い結果となりました。
絹糸は多糸構造ゆえに菌の保持性が高く、また組織反応性が強いことが一因と考えられます。
真皮縫合は傷の緊張を分散できるうえに、皮膚表面にデバイスが露出しないため、感染リスクが低下するという理論的背景が支持されています。
皮膚ステープラーは手技の速さが利点でありますが、SSIリスクは中等度であると結論づけられました。
バイアス評価(Cochrane RoB2)や出版バイアス(Egger検定)でも大きな偏りは認められず、信頼性の高い解析であるといえます。
ディスカッションの要点
絹糸 vs
モノフィラメントにおける菌の伝播経路の違いや感染リスクの理論的背景について議論がありました。ネットワークメタ解析の解釈がやや難しいといった指摘があった一方、最新のエビデンスに基づく選択肢の比較として、臨床への応用可能性が高い点が評価されました。閉創手技における習慣的使用から根拠に基づいた選択へと意識を転換するきっかけとなった、という発表者の視点に多くの参加者が共感していました。
指導医コメント
「外科手術において感染対策は基本かつ重要なテーマですが、日常のルーチンとなりがちな皮膚縫合の選択に、こうしたエビデンスに基づいた視点を加えることは非常に意義深いと思います。外科医として、術式やデバイスの選択理由を経験だけでなく根拠に基づいて説明できるようになることが重要です。」との講評をいただきました。
まとめ
SSIは消化器外科手術における頻度の高い合併症の一つであり、縫合法・デバイスの選択は術後経過に直結する極めて重要な要素です。本抄読会では、形成外科領域の知見も取り入れた多角的な視点からの検討がなされ、術後合併症予防の再認識と具体的対策への意識が高まる有意義な時間となりました。
消化器外科医にとって、閉創技術の習熟は手術の“締め”を担う重要なスキルです。当科では、経験年数に関わらず縫合法や使用材料の見直しを積極的に行い、全員が高い感染予防意識を持って手術に臨む文化があります。今後もより良い術後成績を目指して、技術・知識・意識の向上を図っていきます。
次回予告
2025年12月20日(土)に開催予定です。
司 会:山田岳史先生
指導医:室川剛廣先生
発表者:須藤悠太先生
次回も外科専攻医の発表となります。ぜひご期待ください。