主な病気とその治療

肝臓がんと診断された患者さんへ~当院における肝切除術の実施状況~

肝臓がんとは?

肝臓がんは肝臓にできる悪性腫瘍で治療が必要です。肝臓がんは肝臓の細胞が癌になる原発性肝がんと肝臓以外の臓器の癌細胞が肝臓に転移してくる転移性肝がんとに分けられます。どちらも手術による肝切除が検討されます。

私達の病院では、原発性肝がん、肝内胆管がん、転移性肝がんなどの肝腫瘍に対し、年間で約100例の肝切除を行っており、その約半数の症例に腹腔鏡下肝切除を行っております。肝切除術は消化器外科手術において、術中・術後出血、術後肝不全などを併発する可能性のある比較的大きな手術です。当院での豊富な経験と高度な技術をもつ肝胆膵外科学会が認定する高度技能専門医の執刀の元、安全に切除できる様に体制を整えています。さらに、術前、術後の患者様の管理につきましても肝臓専門医の消化器内科と緊密に連携し安全に手術を受け、退院していただけるよう努力しております。

肝臓がんの症状、発見

肝臓は沈黙の臓器と呼ばれ初期段階では症状は出ないことがあります。特徴的な症状がないため、ご自身で気づくのは難しく、検診などで進行した状態で発見されることもある怖い病気です。進行すると腹部のしこりや腹痛など症状を引き起こします。多くの場合は検診の超音波検査や他の病気の検査中に偶然見つかる事があります。また、肝炎などの肝臓の病気を患っている場合は定期的な検査で発見される場合もあります。

肝臓がんの診断

肝臓がんの診断は多くは超音波検査やCT検査、MRI検査などの画像検査で行います。画像検査で肝臓内に腫瘤といわれる影が認められます。この段階では肝臓がん以外にも肝嚢胞や肝血管腫といった良性腫瘍の場合もあります。肝臓がんの診断は専門医が画像を読影し確定されることが多いです。確定診断に至らない場合は直接肝臓の組織を採取する方法がとられ肝生検と呼ばれます。お腹に針を刺して採取する場合や、穿刺が困難な場合は手術により腫瘍を摘出する場合もあります。

肝臓がんの進行度

進行度は、原発性肝癌取扱い規約により、T因子(腫瘍の病態)、N因子(リンパ節転移の有無)、M因子(遠隔転移の有無:肺、骨転移など)の三つの因子によって決定されます(図1)。T因子は、 【1】腫瘍が1個だけ(単発)、【2】大きさが2cm以下、【3】門脈・肝静脈・胆管への癌の浸潤がなし、の3項目により、T1:3項目合致、T2:2項目合致、T3:1項目合致、T4:すべて合致せず、と取り決められています。

肝臓がんの治療法

肝臓がんの治療法は1つではなく、様々なものがあります。基礎疾患や患者さんの体力、肝臓の機能、腫瘍の状態によって治療法は異なります。当科では、専門医が患者さんに最適な治療法の案内、提供を行っております。手術による切除が選択された場合は腫瘍を含め肝臓を切除します。肝硬変のない正常な肝臓は一部切除されても再生能力や予備能が高く、適切に治療されれば術後も肝臓は問題なく機能します。

肝切除の適応

腫瘍の大きさや数が多く広範囲の切除が必要となる場合、この切除許容範囲は患者さん自身の肝予備能(体を維持するための本来の肝機能の能力)により決定され、肝予備能が不良の場合、肝臓の切除範囲は制限されます。現在当科では、ICG 15分値(採血検査)および肝アシアロシンチグラム(核医学検査)という検査の値を参考にして肝臓の切除量を決定しています。 肝細胞癌の治療方針の決定には、全身状態も考慮された上で、基本的に“肝癌診療ガイドライン“のアルゴリズムを参考にしています。

安全な肝切除量の範囲内で腫瘍が完全に切除できることが重要です。肝切除範囲は主に幕内基準を参考 にして決定しています。  

肝臓は右上腹部に位置し、腹腔内実質臓器の中で最も大きな臓器です。大きく2つの部分 (左葉,右葉)に分けられ、さらに細かく8つの区域に分けられています。
肝臓には流入する血管として肝動脈と門脈があり、肝静脈を介して血液が下大静脈へ流出しています。

肝切除術

肝臓を病変含めて切除する方法は腫瘍が完全に除去され、がんを完治できる可能性があります。もちろんすべての方が手術となるわけではありません。手術を受ける体力があり、肝臓を切除することで適切に病変部を切除でき、肝機能も十分に温存される場合に手術となります。切除するためには全身麻酔を行い、お腹を切って切除し、腫瘍を取り出す必要があります。従来の開腹手術ですと、上腹部の皮膚を20から30cmの長さ切開します。

術式

              

肝臓の切除範囲によって以下のように分けられます。
部分切除・亜区域切除・区域切除・尾状葉切除・左葉切除・右葉切除・拡大左葉切除・拡大右葉切除・左3区域切除・右3区域切除など
また手術操作の必要に応じ胆嚢を同時に摘出することもあります。

腫瘍の存在部位によって、切除する範囲(術式)が決まります。

―腹腔鏡下肝切除術―

私達の病院でも腹腔鏡下肝切除術を積極的に取り入れております。2001年より腹腔鏡下肝切除術を導入し関連施設も含めると600例以上の症例を経験しております。手術の傷が小さいため術後の回復も早く、開腹手術に比べ入院期間が短く早期に社会復帰や追加治療を行えるのが特徴です。
現在は、腹腔鏡下肝切除術は全ての術式において保険収載されております。しかし、私たちが専門にしております肝臓の腹腔鏡下手術と、現在ひろく普及している胆嚢、胃、大腸切除とは異なります。肝臓は太い脈管が存在する実質臓器であり、他臓器に比べて腹腔内での取り回しが困難な場合もあり、思わぬ出血につながる臓器であるため、手術適応を厳しく定めております。私達は、全ての肝切除症例に対して、まずは腹腔鏡下肝切除術が施行可能であるかどうかを検討しています。それぞれの患者さんの状態、病変の場所、大きさなどに配慮して行えるかどうかを決める必要があります。開腹でも、腹腔鏡でも腹腔内で行っている肝切除は同じですが、腹腔鏡肝切除のメリットは、低侵襲(体への負担が少ない)、キズがきれい、腹腔鏡による拡大視効果(肉眼の約10倍)によって、より緻密な手術が行えます。

一方でデメリットとしては、開腹に比べると手術時間がかかることがあります。また、カメラで見ているので死角があり観察が十分でない場合もあります。

―腹腔鏡下肝切除の実際―
手術入院の流れ

腹腔鏡下肝切除術を行う患者さんの代表的なスケジュールを示します。術後の経過や術式によって入院経過が異なることはありますので目安ですが、術後早期の離床および退院が可能となっています。

患者様へ

これまでに、私共は肝臓がんに対する治療を長年、数多く経験しており、患者様のお体を第一に考え適切な治療法を選択してまいりました。手術が必要と判断された患者さんには迅速に対応し、適切な方法で安全に手術を行えると自負しております。現在、治療法に迷われている方やセカンドオピニオンを希望される方もぜひ当院の消化器外科、肝胆膵専門外来を御受診ください。


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